新年の珍客訪れる
新年の某日午後1時ごろ、「父さんの名刺を持った方がいらしているよ」と妻が呼ぶ。誰かと思って急いで玄関に行くと見慣れない男が立っている。
玄関から1歩出てメモ帳に「ねんりんピック旅館」と書く。はっと気づいた。昨年11月、全国ねんりんピックマラソン神奈川大会の際、山北町の旅館で同じ部屋に泊まった方だ。声も出さず抱きしめた。オートバイで県内を旅行中、名刺の住所を頼りに訪ねてきたと言う。静岡からの来訪である。
居間に案内し、マラソンや外国を旅したことなど妻も一緒に手話、筆談を交えて話をした。親しみのある笑顔、きびきびした手話、筆談、そのしぐさに心の清らかさ素直さがにじみ出る。
名刺に「聴覚障害者ランナー・永井恒」「昭和31年元日・静岡県に生まれ、先天性ろうあ者」。マラソン大会出場380回、部門別優勝190回。世界80ヵ国へ一人旅。日本の100名山すべて登頂と細い字で自己紹介。さらに「ライフワークとして私の体験談や世界の手話の現状・障害者福祉指導など、講演活動を通じて障害者への理解を深める活動をしています」「ハンディは少しの不便、だからこそ僕は走り続ける」と添書きがある。聴覚障害を乗り越え前向きに行動する生き方に感銘した。
見送りしたあと妻と話した。新年早々こんな立派な方が訪ねてきてくれた。神様が遣わした使者ではなかったか、と。そうだ。フルマラソンを引退してたるみがちな自分に「年だからと、うかうかするな」とお告げに来たのだ。このままではいかん、と目を覚ました。
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(琉球新報「ティータイム」へ投稿
2023年1月13日 14:50分 原稿送信
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